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【絵が先】ラクダの楽田さん 第2話 著:窓原 凛

第1話→ http://madrine666.blog51.fc2.com/blog-entry-8.html?sp

【絵が先】ラクダの楽田さん 第2話 著:窓原 凛

 アラブの石油王のコスプレで、あろうことか中国のタクラマカン砂漠公路に行った青年の名は蒲田という。
〈かばた〉ではない。〈かまた〉である。
 この青年は、手っ取り早く石油王になるべく、インターネットで手に入れた安物のイカールとカフィーヤを頭に被り、小さなディパック一つの軽装で日本から中国までやって来た。
 そして、お約束通り行き倒れて、通りすがりのラクダに救われたのだ。
 ラクダの背中から落ちてきた飲料水で十分に喉を潤した蒲田は、道路の片隅で大の字に寝転んだ。
「あー、何しにここ来たんだっけー? 何だか俺にとって不都合なことがあったような気がするけど」

 ——ぽぷぽぷぽぷん、ぽぷっ! ぽぽぽぽんぽふん!
 
「なんだ、なんだ、この愉快な効果音は」
 蒲田は辺りを見回した。
 するとなんということだ。ラクダが表情ひとつ変えず地団駄を踏んでいるではないか。
(どこか痛むのだろうか、怪我でもしたのだろうか)
 蒲田はラクダの足を心配した。
(いや待て。——このラクダ、さっき喋ってなかったか?)
 足の様子を伺おうと、中腰になって伸ばしかけた蒲田の手が止まる。
(漫画や小説で言うところの起承転結の「起」が「ラクダが喋っていて、俺が行き倒れていた」ということであれば、このラクダの異変フラグを回収すると確実に「承」がやって来て、俺が意図せぬ出来事に発展する。面倒なことに巻き込まれることは間違いないだろう)

 蒲田は踵を返した。
(そうだ、さっきの水だって偶然ラクダから落ちてきたに違いない。喋ったように聞こえたのだって疲れてたんだ。そうに違いない)
 まるで自分以外の何者かに『俺は関係ないんで』と主張するかのように、そしてラクダへの恩を仇で返す罪悪感を払拭するかのように、蒲田は脳内で考えを巡らせた。

——ぽぷぽぷっ! ぽぷんぽぷんぽっぷん! ぽぷーん!
 そんな蒲田にとって大変シリアスなシーンも、軽快で、愉快で、不思議な効果音に打ち破られる。
「あらあら、まあまあ。お恥ずかしい。私のブレイクダンス、見てくださってたんですか。ありがとうございます」
 そう、穏やかで忍耐強く、大らかで、更に優しく、喋って踊れるラクダの楽田さんである。
 幻でも夢でもゲームでもアニメでも小説でもなく、蒲田の目の前に、喋るラクダがいるのだ。
「あらあら、まあまあ。あなたがぼんやりしているものだから、なんだか退屈で。まだ家に帰るのももったいないですからね」
 いや、帰れよ。蒲田は思った。
「あらあら、まあまあ。それで、ほら、最近流行ってる、最近中学校でも必修になったダンスを、うふふ」
 こうしてのほほんと話している間も、ラクダの楽田さんの軽快なステップは止まることを知らない。ずーっとぽぷぽぷしているわけだ。

 考えて欲しい。
 場の状況を受け入れなければならない大切な時に、思考を遮るどころか思考が停止するほどの謎の効果音が鳴り響いているのだ。
 例えばあなたが大切な重要書類に必要事項を記入し、押印し、各種書類を同封してどこかに送ろうとしているとしよう。
 最終チェックの指差し確認の段階で、突然横に愉快なDJが現れて『ヒィウィゴー!』などという台詞と共に大音量でユーロビートを流し続けられて、集中できるだろうか。
 今、蒲田に強いられている状況がそれだ。
 ましてや、この蒲田という青年。この現実離れした目の前の状況を受け入れたくないのだ。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

【絵が先】ラクダの楽田さん 著:窓原 凛

 ラクダの楽田さんは、鯨偶蹄目ラクダ科のヒトコブラクダだ。
 穏やかで忍耐強いことを自称している。
 それがどの程度かというと、重い荷物を持たされ、人間に乗られ、更には移動を強いられ、終いには「僕ラクだ」などという非常にくだらないダジャレをアテレコされようが、伏し目がちに反芻し続け聞き流す程度に忍耐強い。
 この忍耐強さを説明すれば、楽田さんがどの程度穏やかであるかの説明は不要である。
 そもそも、楽田さんは卵巣を持ち、子を産む、生物学的には〈メス〉である。
 愚かな人間共に勝手に『僕』という一人称で性別を決めつけられ、呑気で馬鹿らしいアテレコを吹き込まれても腹を立てることはない。
 窓を開けたら風が入ってきました、彼女にとって「僕ラクだ」というアテレコなんてその程度のものだ。最早、穏やかという言葉の存在そのものが楽田さんだと言って過言ではない。

 そんな穏やかなラクダの楽田さんだが、不思議なことに歩くと『ぽぷんぽぷん』と愉快な音がする。
 この音が楽田さんは大好きだ。
 誰が鳴らしてくれているのか不思議だが、穏やかな楽田さんは大らかでもあるので一切気にしない。
『ぽぷんぽぷん』というどこからか鳴る音と共に、毎日人間共のお手伝いを愚痴ひとつこぼさすやって、毎日同じことを繰り返し生きているのだ。

 ある日、楽田さんが飼い主の目を盗んで抜け出し、タクラマカン砂漠公路を歩いていた時のことだ。
 ぽふんぽふん。
「あらあら、まあまあ。ラクダが砂漠ではなく舗装された道路を歩くというのも、おもしろいと思うんですよ」
 誰に言うでもなく、楽田さんは反芻しながら言った。
 楽田さんがそのまま公路を歩いていると、舗装された道路の片隅に何やら転がっているのを見つけた。
頭にイカールとカフィーヤを被った『いかにもアラブの石油王』といった出で立ちの青年が、倒れていた。
 なんと場違いな。ここは中国である。
 穏やかで忍耐強く、大らかで、更に優しくもある楽田さんは青年に声を掛けた。
「あらあら、まあまあ。どうしたのかしら。場違いな格好をして」
 倒れていることの心配ではなく、出で立ちの心配をする辺り、さすが楽田さんである。
 見るところ完全なるアジア系の顔で、アラブの良いとこの坊ちゃんには見えない。
 テロンテロンの安物の生地を見るに、大方『石油王を目指して形から入って、軽装でやってきたものの、案の定行倒れた』といったところだろう。
 そのうっかりさを、楽田さんは心配しているのである。
「あらあら、まあまあ」
 楽田さんは、たまたま背中に乗せていた飲料水のタンクを青年の顔面スレスレに落とした。
 青年は飛び起きると、その場で栓を回し取り放り投げ、タンクに入った水を一滴も逃すものかという勢いでガブガブと飲んだ。
 あらかた喉を潤し終えた様子の青年は、タンクの口の部分の水を啜ると、大きなため息を吐いてから話し始めた。

「いやぁ、石油王を目指そうと思って! まずは形から入ろうとこの衣装をネットでポチッてここに来たんです!」
 青年の話は考えなしの安直さで、まさに想像通りだったので楽田さんはにっこりとした。
「でー、飲料水なんて重いし食料は日持ちしないしだし、現地調達しようと思ったんですけど、うまいこと行かないもんですね。キュー、パターン、で倒れちゃって」
 楽田さんは、想像通りだったのでにっこりした。これで2回目であるが、大らかであるため気にしない。
「あらあら、まあまあ。それは大変だったのですね」
 楽田さんが優しく声を掛けたところで、青年はハッとした。
 ——ラクダが喋っている。
 青年は、大変なことに気付いてしまった。
 てっきり誰かが助けてくれたもんだと、聞かれてもないことをペラペラと喋って——。それに対して、ラクダが、聞き上手のお手本のような返答をしたのである。
 そんな非現実的現象が何の違和感もなく受け入れられている。
 それに気付いてしまった以上、このうっかり青年が置かれるポジションは決まってしまったのだ。
 逃れられぬ運命の歯車が、動き始めた。

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

【三面推理・名画の謎、解明か?・犯人Side】

 月咲美紗都の放った延髄斬りが決まり、探偵気取りの青年は埃塗れの床に倒れた。
 ――ここは竹の子町の小さな店、『蕎麦屋はっぴぃちゃーむ』。
 表向きには蕎麦屋と銘打ってあるが、赤いメイド服を着用した美紗都の鼻フックを売りとしたボッタクリ店である。
 店構えも、一般的な蕎麦屋とは言えない。勿論、蕎麦も食えたもんじゃない代物だ。
 看板には丸文字で『はっぴぃちゃーむ』と書かれ、美紗都であろう二頭身のキャラが投げキッスをしている絵が描かれている。
 そんな伏魔殿のような店に、青年は迷いこんでしまったのだ。なけなしの千円を手にして。

 青年が意識を取り戻すと、そこは見覚えのない洋室だった。
 ロココ調の家具に赤いカーペット、一点一点は高級な品だが、大変悪趣味な組み合わせとなっている。
 しばらく横たわったまま様子を伺った。人がいるような気配はない。
 起き上がり、呆然とする青年の視界に入ったのは――少女であった。
 金髪くるくる縦ロール、赤子のような白いボンネット、白いふりふりのワンピース、青い目をした、美しい少女がこちらを見ている。
 青年が首を傾げると、少女も同じく首を傾げる。照れ隠しに笑みを浮かべると、少女も美しく微笑み返す。少女の美しさにため息をつくと、少女も同じようにため息をついた。
(もっと近くに)
 青年が少しだけ少女に近寄ると、少女も同じように近寄る。そして、触れるか触れないかの距離まで近寄ると、そっと少女の頰に触れた。
(冷たいっ……!)
 青年はすぐに手を引き戦慄した。人肌の温かみや柔らかさが一切感じられなかったのだ。
 ——この世の者ではないのかもしれない。
 ふとそんな思いが脳裏をよぎったが、そんな馬鹿なことがあってたまるかと青年は思い直り、今度は少女の手を握るべく、両手を伸ばした。
 ぺと……。冷たく、フラットで、そしてパントマイムショーの様に自分と同じ動きをする少女。
 目の前にいるのは少女などではない。少女は、鏡に映る青年だったのだ。
 しばしの間、鏡に映る己の姿を見つめ、青年は呆然とした。
「待て!」
 青年は突然、下半身に違和感を覚えた。ワンピースを捲ると、パニエの下にドロワーズが穿かされている。
「穿いていた下着を脱がされて、これを穿いているということは……。俺のを『見た』ってことか!?」
 青年は言葉を失い、鏡を更に見つめた。
(俺は……なんて……)
 急に気恥ずかしくなって押さえた股間は、爆発寸前まで怒張している。
(俺は、なんて、美しいんだ!)
 青年は――とんでもないものに目覚めてしまったのである。
 本来であれば、モノを見られた気恥ずかしさよりも、真っ先に己の出で立ちを恥ずべきだろう。しかし、残念なことに青年は『それ』に興奮しているのだ。一週間以上穿き続けた芳しい香り漂うブリーフの事など二の次だ。
 興奮した青年は己の美しい姿を更に丹念に見ようと立ち上がった。
 その瞬間、青年はグニャリと足首を捻って派手にすっ転んだ。厚底の白い靴を履かされている。
(これは……ロッ……)
 バッターーーン!
 壊れんばかりの勢いでドアが開いた。
「ロッキンホースバレリーナよ☆」 
 『蕎麦屋はっぴぃちゃーむ』の主、美紗都がバンザイのポーズで登場した。
「知ってるとも! ヴィヴィアン・ウエストウッドの初期からの名作だ! ヒールは七・五センチもあるが、ソールがフラットなプラットホームシューズだから安定感があるんだ! だから見た目以上に履き心地が良い! ロリータの憧れの一品だ!」
「あなた、なぜそんなにお詳しいの?」
 青年は絶句した。実は以前から〈そういう事に興味があった〉などとは……口が裂けても言ってはならない。なぜなら、探偵だと自負しているからだ。
 その自負があるのならば、今にも暴発寸前の股間をどうにかすべきだということなど、青年は気付くはずもない。なぜなら、鏡に映し出された自分に陶酔し切っていたからだ。
 美紗都の問い掛けを無視して、青年は鏡に映る自分にうっとりとしている。
「まぁいいわ。あなた、お名前は何ておっしゃるの?」
 痺れを切らした美紗都が話題を変える。青年はハッとして答えた。
「加藤……加藤ニ(つづく)だ。漢数字のニと書いて〈つづく〉だ」
「ふぅん。当て字ってやつね。よく役所が受け付けたものだわ」
 黒髪の毛先をくるくると弄びながら、美紗都は興味無さそうに呟いた。
「俺と兄貴はまだ良い。兄貴が漢数字で一と書いて〈はじめ〉、弟は……三と書いて〈うちどめ〉だ。かわいそうに弟は学校でも……」
 青年こと加藤は目に薄っすらと涙を浮かべ、嘆くように美紗都に訴えかけた。
「ごめんあそばせ☆ わたくし、そういうお涙頂戴話は興味ないんですの☆」
 加藤に背を向け、部屋を出かかった美紗都が思い出したように振り返った。
「無銭飲食のお代は、労働で支払って頂きますわよ☆」
正確には所持金不足であったが、加藤は黙り、可愛らしい出で立ちのまま項垂れた。

 数ヶ月後、『蕎麦屋はっぴぃちゃーむ』の店先には、赤いスーパーカブの隣に、同じく全てピンクに塗装されたスーパーカブが並んでいた。
「それでは、行って参りまぁす」
 ピンクのメイド服にピンクの岡持ちを持ったメイドが、元気良く挨拶をして店を出る。
「お気をつけあそばせ☆」
 美紗都が微笑ましく見送る。
(やはり、わたくしの目に狂いはなかったわね)
 無銭飲食で労働を課せられた加藤は、タコ部屋以下の暮らしを強いられた。
 日給千円。しかし、毎日の下宿代と食事代が九百円、残りの百円は必要な消耗品で消え、不足分は更に借金で賄うしかなかった。
 働けど働けど楽にはならず。文句を言えば言うほど、赤いディルドで尻穴をほじくり返された。
 それでも加藤は生きることを諦めなかった。
 新しい道を選んだのだ。女装子のメイドという道を――。
 覚悟を決めた加藤は、メキメキと頭角を現した。美紗都直伝の鼻フックと尻穴花瓶を武器に、黄色いバカ女こと如月萌子の店も閉店に追い込んだ。
 更に『つーちゃん』と改名し、ついでに尻穴の快感にも目覚めた。
「ただいま帰りました~」
 笑顔の加藤の顔に、うっすらと鼻フックの跡が残る。
「お姉様……。今日もお仕置き、お願いします……」
「ハイハイ、分かってますわ☆ つーちゃんは本当に手が掛かる子だこと☆」
 頬を染め、もじもじとする加藤は完全に美紗都の支配下にあった。否、美紗都の足元に置いて貰える幸せを、加藤は自らの手で掴んだのだ。
 今夜も悪趣味なあの部屋で、加藤の喘ぎ声が響き渡る。
「ハキョーーーーーーーーーーン!」

 その頃、隣に住む美紗都の母トメ子は、テーブルの上に溢れかえる売上を何度も何度も数えていた。
 毎夜続く、隣から聞こえる加藤の喘ぎ声にも慣れたもので、合いの手まで打つようになった。
「ィヨイショー♪ てなもんさ~♪ 美紗都も良い子を捕まえたもんだねぇ」
 札を数え直す度に親指をべろんと舐める。何度も何度も繰り返す。札の角はふやけてとうにグシャグシャだ。
「しかしまぁ、我が子ながら新聞偽造までするとはねぇ……。おお、くわばらくわばら」
 丸眼鏡の巡査が、五時ぴったりに退社して向かった先は『蕎麦屋はっぴぃちゃーむ』。
 面倒事を闇に葬りたい竹の子町の住民と、面倒事を起こす美紗都、加藤を見初めた丸眼鏡の巡査。利害は完全に一致していた。
 竹の子町の住民全員がグルだった事を、加藤が知るはずもなく、知る必要もない。
 丸眼鏡の巡査が『君のため』と言い渡したメモも、もう必要ない。彼は、毎日五時ぴったりに加藤を電話で指名予約するお得意様なのだ。
 美紗都とトメ子が裕福になり、それによって竹の子町が平和になり、丸眼鏡の巡査の欲が満たされ、加藤が新しい道に目覚めた。
 全てを知る必要などない。
 各々が幸せであれば――それでいいのだ。

【三面推理・賽銭を返せ! 男暴れる・犯人Side】

 竹の子神社の神主である鈴堂木葉梟(りんどうこのはずく)は、仏法僧に基づき考えた。
 おっぱいは宝である、と。
 ――悟りを開いた仏よりも、その教えよりも、その教えを受け修行をする尊さよりも。それらをひとまとめにしても、おっぱいの比ではない。三宝がなんだ。おっぱいこそ至高の宝である――と。
 そもそも鈴堂木葉梟は神主であり、出家もしておらず、よって僧侶でもなんでもないが、考えるだけなら誰にも突っ込まれはしない。それを良いことに、さも高尚な事のように日がな一日考えた。おっぱいに埋もれたいと。
 女太鼓保存会ポンポコの稽古場として境内を貸し出しているのも、町内会の兼ね合いなどではない。
 練習風景を微笑ましく眺めるふりをして、サラシを巻いた女の乳をじっくりと堪能するためである。

「もう十一月か」
 祭を控え、サラシ一枚で太鼓の練習をする女共を眺めるのは格別である。
 特に秋野さんのところの嫁の晴海の乳は良い。
 〈三十させ頃、四十し頃、五十ゴザむしり、六十ろくに濡れずとも〉とはよく言ったものだ。四十八の晴海の身体は「し頃」という欲求の塊と言ってもいい。歩く性欲だ。見ろ、あのデカ乳を。むしゃぶりついてやりたい。
「あっちゃん、そこはもっと軽快にね」
 晴海の指導に熱が入る。私の股間も熱い。
 宗像さんとこの娘の明子ちゃんももう二十一か。近頃流行りの貧乳というやつだ。寂しい胸元がサラシで更に貧相なことになっている。だが、あのデカ尻は良い。まだまだ青いが、子供を産んで三十くらいになったら熟してくるだろう。
 そうだな、今年不惑を迎えた息子の夜鷹(よたか)に当てがっても良さそうだ。あのデカ尻がうちの台所に立つのも悪くない。想像するだけで胸と股間が熱くなる。
 晴海達の練習も更に熱が入り、夜半をとうに過ぎた。ああ、いつまでも眺めていたい。あの乳、あの尻を。
 しかし、私のその清らかな思いを切り裂くように、境内に女の金切り声が響いた。
「うるさいなんてもんじゃなくってよ! 今、何時だと思ってらっしゃるの!?」
 近所の蕎麦屋の女だ。
 ハリツヤのなくなった肌に桜色のネグリジェ。その姿で叫び散らす様は、見る者にとって拷問以外の何物でもない。
 唾を撒き散らし、私の晴海に食って掛かる。
 仲裁に入るべきか悩んでいる内に、血の気の多い明子が反論した。
「うるせぇババア! 棺桶にでも入ってろよ!」
 激昂した蕎麦屋の女が明子に矛先を変え、取っ組み合いのキャットファイトに発展する。
 ……これはどうにもならない。修羅場というやつだ。心穏やかに眺めるしかない。
 腹を決めたのも束の間、蕎麦屋の女が晴海のサラシに手を掛け引き千切った。その引き裂かれたサラシから零れ落ちる晴海のデカ乳に、私の股間は黙ってはいない。暴発した。
「親父、表が騒がしいけどどうかしたの?」
 既に床に就いていた息子の夜鷹も、あまりの騒々しさに目を覚ましたようだ。濡れた股間をそっと隠す。
 ご近所の明かりもポツポツと点き始めていた。これ以上、騒ぎにはできない。私は決心した。この騒ぎを止めようと――。
「お前が行ってこい」
 我が子を千尋の谷に突き落とす獅子が如く、華奢な夜鷹を玄関から蹴り出した。面倒事は御免だ。
 しかし、頼りない息子を持ったことを心から残念に思うことになるには、あまり時間を要さなかった。
 仲裁に入ろうと近付いた夜鷹に、蕎麦屋の女の延髄斬りがあっさりと決まる。
 意識を失い崩れ落ちた夜鷹が境内の土にゆっくりと口付けをする暇はない。
 我が息子が五十を過ぎたネグリジェ姿の女にズボンを剥ぎ取られ、割り箸で尻穴をほじくり返される様は、さながら地獄絵図だった。
 私は覚悟を決めた。
 ゆっくりと神職衣装に着替え、三人の女の元へ向かった。足元には、尻から割り箸の花を咲かせる花瓶と化した夜鷹も転がっている。
「何が欲しい」
 やっとのことで搾り出した言葉だった。察した蕎麦屋の女が手を止める。
「無粋なことは言わせないで頂戴」
 金か。
 震える手で賽銭箱の鍵を開け、札という札をかき集めて手渡した。
 蕎麦屋の女はそれを黙って受け取ると、にっこりと笑って背を向ける。
「それでは皆様、ごきげんよう」

 鈴堂木葉梟の災難は、これで収束したかのように思われた。
 しかし、蕎麦屋との諍(いさか)いは、近隣の者がいつ出てきてもおかしくないほどの騒ぎになってしまった。
 更に止む無くとはいえ、賽銭箱から金を拝借した事。これが町内に知れ渡れば、竹の子神社も木葉梟の代で終わりである。
 全ての事実を消し去るため、偽装工作が必要だった。時間に猶予はない。
 祭礼用に用意した軽トラックの荷台へ太鼓と賽銭箱を乗せ、使い物にならなくなった夜鷹は助手席へ押しやる。
 憔悴しきった晴海には上着を羽織らせ、荷台に乗せてビニールシートを被せた。 
 恐怖に怯える明美に軽トラックと賽銭箱の鍵を強引に渡し、木葉梟は言った。
「痛車の改造費は全額出してやる」
 明美の瞳の奥に力が入った。ゆっくりと頷くと、軽トラックに乗り込みエンジンを掛けた。
 軽トラックが境内から出ると、木葉梟は気が抜けてへたり込んでしまいそうになった。
 しかし、木葉梟は最後の辻褄合わせのために立ち上がり、神職衣装を脱ぎ捨て力の限り叫んだ。
「どうして宝くじが当たらないんだ! 一万円入れたのに!」

【絵が先】サンタがうちにやってきた!

 友達は犬のジロ。他にはたくさんの本と、たくさんの自然――。小さなシオンは、その小さな世界が全てでした。

 山奥のレンガでできた煙突のお家に、シオンという小さな男の子が、たったひとりで住んでいました。
 お父さんもいなければ、お母さんもいません。
 ひとりはとっても大変だけれど、たくさんの本にたくさんのことを教わって、ひとりでも立派に暮らしていました。
 火はとっても暖かいけれどとっても危ないこと、お日様はとっても暖かいけれどとっても遠くにあること、たくさん積もる雪は暖かいお日様が溶かしてくれること、分からないことは何でも本に教わりました。
 たまには怪我をしたり、ちょっと失敗したりもしましたが、犬のジロと一緒にたくさん頑張りました。
 だけど、寂しくて少しだけ泣いてしまう日もあります。
 そんな時、犬のジロはシオンの頬を舐めて元気にさせようと頑張るのです。
 だから、シオンは小さくてもなんとか強く生きようとしました。

 シオンが生まれて、何回かの春と夏と秋が過ぎて、何度目かの冬がやってきたある日。
 たくさんの本の中に、今まで読んだことのない本を見つけました。
 赤い帽子に赤い服、白いヒゲを生やし、大きな袋を持ったおじいさんの絵が描かれた表紙には、大きく『クリスマス』と書かれていました。
「クリスマス? サンタさん?」
 シオンはクリスマスを知りませんでした。今までこの本を読んだことがなかったからです。だから、サンタクロースだって知らなかったのです。
 本を読んだシオンは、楽しそうなクリスマスの様子と優しそうなサンタのおじいさんがすぐに大好きになり、何度も何度も本を読みました。
 十二月二十五日のクリスマスは、キリストという昔の偉い人の誕生日だから、お祝いにご馳走を食べたり、お家をヤドリギで飾り付けしたり、モミの木にはキラキラの飾りを付けたり、お歌を歌ったりすること。
 十二月二十四日のクリスマスイヴには、子供達が寝静まった頃、サンタさんがソリに乗ってやって来て、枕元の大きな靴下にプレゼントを入れてくれること。
 絵本にはシオンの知らないことがたくさん描かれていました。 
「僕のお家にも、サンタさん来てくれるのかなぁ」 

 それからシオンは絵本の見よう見まねで、毎日こつこつとクリスマスの飾り付けをしました。指折り数え、シオンの小さな両手だけでは数え切れなくなった頃。待ちに待ったクリスマスイヴの夜がやってきました。
 いつもならとっくに寝ている時間ですが、シオンはベッドの中で目を開けてじっと待っていました。サンタさんに会うために、寝ないで待つことにしたのです。
 眠くて、眠くて、しょぼしょぼする目を擦り、やっぱり少し眠ってしまいそうになったその時……。
 ――ガサッ! ガササ! ズササガチャーーン!
 お家の暖炉から大きな音がして、シオンは目を覚ましました。それからすぐに飛び起きて、音がした暖炉に走りました。
 暖炉の前には、尻もちを付いて痛そうにしている太っちょなおじいさんがいました。絵本から抜け出したような、赤い帽子に赤い服、白いヒゲのサンタさんです。
 びっくりして黙って見ているシオンを見て、サンタさんは言いました。
「起こしちゃったかな? 良い子にしてる君にプレゼントだ。ho ho ho」
 そう言ってシオンにプレゼントを手渡すと、大きな手で小さな頭を撫でました。サンタさんの手はとっても冷たかったようですが、シオンにはとても暖かく感じました。
「これからも良い子にするんだよ。ho ho ho」
 今夜、サンタさんはシオンだけではなく、世界中の子供達の元へプレゼントを届けるのです。急がなければなりません。
「待って! 待って! 行かないで!」
 急いでコートを羽織り、帽子とマフラーと手袋を付け、貰ったプレゼントを持って駆け出しました。
 しかし、外に出た時にはもう遅く、サンタさんは八頭のトナカイが引くソリに乗って、星が輝く夜空に飛び立ってしまっていました。
 それからシオンは、サンタさんが去っていくのをずっとずっと見つめ続けました。犬のジロがコートを引っ張っても。サンタさんが見えなくなっても。
 体の芯まで冷え切ってやっと、シオンはお家に戻りました。
 あまりにもあっという間の出来事で、夢じゃないかと思い、ほっぺをつねってみたけれど、とっても痛くて……。それに、サンタさんは去り際に暖炉に火を入れてくれていて、お部屋はとても暖かく、こけて散らかったお部屋はそのままでした。プレゼントだってあります。
「やっぱりサンタさんは来たんだ。夢じゃなかったんだ」
 サンタさんの大きな手で頭を撫でてもらったことを思い出しました。
 今は、誰もいません。
「さみしくないやい」
 ベッドに横になると、我慢していた涙がぽろぽろと流れました。そして、そのままシオンは、いつの間にか眠ってしまっていました。
 いつもどおりの夜じゃなくても、日はいつもどおり昇り、朝はやって来ます。
 朝日が眩しくて目覚めたシオンは、夢だったのかもしれないと、慌てて飛び起きました。しかし、枕元には昨日貰ったサンタさんからのプレゼントがちゃんとありました。

《コマンド選択》
 プレゼントを……
 ●開ける
 ●開けない
 あなたならどちらを選びますか?
 せっかくのサンタさんからのプレゼントですもの。サンタさんの優しさを嬉しいと思うなら、素直に『開ける』でしょうね。素直なあなたなら、当然開けるでしょう?
 ではシオンにはプレゼントを開けて貰いましょう。

「何が入っているんだろう」
 シオンはわくわくして、どきどきして、箱を持って上げたり下げたり、振ってみたりしました。
 けれど何の音もしません。
「僕が一番欲しいのは……」
 そーっとプレゼントの紐を解くと、箱がはち切れんばかりに膨らみ……。
 ――Merry Christmas. ho ho ho――
 箱の中からたくさんのキラキラと、昨日のサンタさんの声が飛び出しました。しかし、箱の中身は空っぽです。
 しょんぼりとしていると、シオンの寝室に男の人と女の人が入ってきました。
「おはよう、シオン。昨日はよく眠れたかい?」
「おはよう、シオン。サンタさんからのプレゼントは何だったのかしら」
 突然現れた二人にシオンはびっくりして、きょとんとしてしまいました。
 ――いかんいかん、忘れておった。 ho ho ho――
 またサンタさんの声がして、たくさんのキラキラが部屋に舞い散りました。
 するとシオンの頭の中に、お父さんとお母さんとのたくさんの思い出が溢れかえりました。
 お父さんの肩車はとっても高いこと、お母さんのシチューはとっても美味しいこと、お父さんとお母さんに頭を撫でられるととっても暖かいこと、たくさん、たくさん。
 そして、目の前にいるのがシオンのお父さんとお母さんであること。
「おはよう、お父さん、お母さん」
 シオンがお父さんとお母さんの足に抱きつくと、お父さんとお母さんもシオンをたくさんたくさん抱っこしました。犬のジロも周りを駆け回ります。

 プレゼントの中身は、シオンの望んだものだったのでしょうか?
 それはシオンにしか分かりませんが……ひとりと一匹だった時よりも、とっても賑やかで楽しそうですね。
 〈Good end〉
プロフィール

窓原凛

Author:窓原凛
スラップスティックの名手氷原公魚さんに弟子入りしてに窓原凛を襲名しました。
これからどうなることやら……。

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